農福連携に関わる園芸療法士・作業療法士の就労継続支援B型事業所でのチャレンジ日記⑧「Lilyで育まれているもの」

朝の畑には、まだ少し夜の気配が残っています。

湿った土の匂い。
葉に溜まった小さな水滴。
誰かが黙って鍬を入れる音。

その静かな風景の中で、人はそれぞれの速度で、一日を始めていきます。

Lilyで働いていると、「支援」という言葉だけでは言い表せない瞬間に、何度も出会います。

Lilyには畑があり、革工房があり、パソコンスペースがあります。そこでは毎日、野菜が育ち、革が形を持ち、画面の中に文章やデザインが生まれていきます。

けれど本当に育っているのは、野菜や作品だけではないのだと思います。

畑では、土に触れ、水をやり、小さな変化を見つめ続ける。その積み重ねが、少しずつ自分自身の捉え方を変えていきます。

革工房では、静かに手を動かし続ける背中があります。何度も縫い直しながら、それでも少しずつ形になっていく。
その姿を見ていると、人は完成だけでなく、「向き合っている時間」そのものによって支えられているのだと感じます。

パソコンスペースでも同じです。
小さな操作に戸惑いながら、それでも昨日できなかったことが、今日は少しできるようになる。その積み重ねは、とても静かですが、確かにその人の景色を変えていきます。

私は時々思います。豊かさとは何だろう、と。

速く進むことなのか。
多くを生み出すことなのか。
数字として評価されることなのか。

もちろん、それらも大切なのだと思います。

けれど、この場所で日々流れている時間に触れていると、豊かさとはもっと、柔らかく、静かなもののように思えてきます。

自分が作ったものを、誰かに見せたくなること。
「これ自分が作ったんです」と、少し照れながら話せること。
夢中になっている人の背中に、その人らしさがにじむこと。

ものづくりの場には、いつもその人だけの物語があります。

うまくいかなかった日も、迷った時間も、黙り込んでしまった午後も、そのすべてが少しずつ混ざり合いながら、一つの作品や、一つの野菜や、一つの表情になっていく。
私は、その過程に深く心を動かされます。

支援という仕事は、「何かを教えること」だけではないのかもしれません。

人が、自分の手を通して世界と関わっていくこと。
その人の中にある物語が、静かに形になっていくこと。
その時間のそばに居続けること。

それもまた、大切な支援なのだと思っています。

何かを急いで変えなくてもいい。
うまく言葉にできなくてもいい。

ただ、その人らしい時間が流れていれば、それだけで十分なのかもしれません。

  • URLをコピーしました!
目次